秘密の地図を描こう
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同じ光景を、アスランも見ていた。
「アスラン?」
反射的に立ち上がった彼に、ミーアが呼びかけてくる。
「ミネルバに戻る。予備のザクでもグフでもいい。使える機体があるなら、回してもらう」
そう言いながら、その場を立ち去ろうとした。
「どうしてですか?」
何故、そう考えるのか。彼女はそう問いかけてくる。
「アークエンジェルだからです」
アスランとしてみれば、それ以外に言うべき言葉はない。
「あの艦のクルーなら、間違いなく彼らを助けに行こうとするでしょう」
だから、と付け加えたのは、あくまでも蛇足のつもりだった。
「ですが、あの艦にいらっしゃる方は、あなたの手助けを必要としておられないかもしれませんわよ?」
それでも行くのか? とミーアは問いかけてくる。
その口調が本当にラクスそっくりだ。しかし、そのとげは彼女のものほど鋭くない。もっとも、その差に気づけるものがどれだけいるかはわからないが。
「そうかもしれない。それでも、そうしたいと思うから」
今の自分は何もできないかもしれない。
それでも、彼らを守りたいという気持ちは事実だ。
「例え、彼らにとって自分が不必要な存在でも、私にとって彼らは大切な者達です」
少しでも役に立ちたいと思ってはいけないのか。言外にそう問いかける。
「あなたが守りたいと思っておられるのは、ただ一人ではありませんか?」
ミーアはあきらめる様子もなく、さらに問いかけてくる。
「そう言われればそうかもしれません。ですが、その周囲の人々を守らないと私が本人を傷つけてしまうかもしれない。その程度は理解できるようになりましたよ」
今回のことで、と続けた。
「考える時間だけはありましたから」
幸か不幸か、と自嘲の笑みとともに告げる。
「……少しは成長された、と言ってよろしいのかしら?」}
言葉とともに彼女は首をかしげた。
「ともかく、時間が惜しい。悪いけど、君とつきあうのはここまで、と言うことにしておいてくれるか?」
そんな彼女の仕草にわずかだがいらだちを感じつつ、こう言い返す。
「そうですわね。アークエンジェルにはわたくしにとっても大切なお友達が乗り込んでおられますもの。これ以上、あなたのお邪魔をしては申し訳ありませんわね」
もっとも、出撃できるかどうか、わからないが。彼女は言外にそう告げる。
「ご理解いただけて幸いです」
そのイヤミを無視してアスランはさっさと歩き出す。
出撃できるかどうかわからない、と言うことは自分がよく知っている。
それでも、何かできるかもしれないだろう……と心の中で呟く。
「許してもらえなくてもいい……俺は、あいつらを――あいつを守りたいんだ」
自分に残されたことは、それだけだろう。
逆に言えば、その事実に気づくまで今までかかってしまった。
「あいつが『みんなを守りたい』と言うなら、俺もそうするだけだ」
小さな声で、そう付け加える。
「最初からそう言えればよかったんだろうな」
それができなかったから、彼を傷つけた。
今まで、どうしてそれがわからなかったのか。そう考えれば、答えはひとつだ。
自分が自分のことしか考えていなかった。ただそれだけだろう。
もっと早く、その事実に気づくことができていれば、状況は変わったのだろうか。
「今更だな」
苦笑とともにそう呟く。
過去をあれこれ言っても意味はない。それよりもこれからどうするかの方が重要ではないか。
だから、とアスランは唇をかむ。
「俺は、お前たちのところに行くんだ」
それでどうなるかはわからない。しかし、動き出さなければ何も始まらないから。そう呟いていた。